絵画の解説は読んでいて楽しい:『ヘンタイ美術館』読書感想

今回は読書感想みたいなものです。
やはり面白さがわからないものを知るには、その面白さをうまく解説している人の話をきくのが手っ取り早いです。
以前、現代美術に関しても、そう思いました。

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西洋美術ネタで『ヘンタイ美術館』(山田五郎、こやま淳子、ダイヤモンド社)を読みました。
現代以前の西洋絵画に関して一般向け解説として私が手にしたのは、中野京子の「怖い絵」シリーズ以来でしょうか。
中野氏が絵にまつわる「怖さ」の点からの解説をしているとしたら、山田氏は「エロさ」に重点を置いています。

そんな山田氏の美術解説本は数冊あるのですが、一番惹かれたタイトルを選択。
それが今回の『ヘンタイ美術館』です。(笑)
ストーレートで良いですね。
絵画から醸し出されるエロさの表現が云々でなく、この人達ヘンタイですよ、と有名な画家たちを名指ししています。

まあ、突き詰めれば美術表現なんて自分の信じるエロさをどれだけ自分らしく表現できるかどうか。
それに群を抜いて行動しきってしまった人をヘンタイという称号で褒めているのだなあと、勝手に解釈しました。

本に出てきた「全裸に毛皮」の「真っ裸+1」だったり、「ポチャロリ」だったり「背中フェチ」だったりと、現代を先取りする表現方法の画家たちをいろいろ語りたくなりますが、やはり個人的に印象深かったのはドガ先生ですね。

悲しいことに、否、嬉しいことに一番、共感できましたから。(笑)

19世紀の印象派のひとりであるエドガー・ドガは、この本の大トリで登場しています。
ですから著者の山田氏も絶賛でお気に入りのヘンタイ度です。
敬意を込めて、「ヘンタイ」ではなく「変態」と断言しています。

時系列的に印象派メンバーがラストに来るのは当然なのですが、それでもトリをつとめさせるには何らかの意図がありますものね。
ちなみに、印象派というのはグループの呼び名です。
大雑把に言うと「エドゥアール・マネ尊敬集団」だったとは。
「マネ先輩、かっけーす!マジ、リスペクトっす!」というやつです。
ですから、マネ先ぱ…、マネは印象派に入らないのですね。
なんか、こう、よくわからないけど印象的な絵を描く派閥なのかなと、今まで勝手に思ってました。(笑)

そんななかで、ドガさんです。

著書のなかで、山田氏は「ハゲオヤジ効果」の使い手と位置づけています。
代表的な構図が若いバレリーナたちとハゲのオヤジ。
薄汚いオヤジとの対比で少女たちの純潔性を強調させるのですが、これ、おっさん&美少女のバランス論と似たところがありますね。

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驚いたことに、ハゲオヤジ効果はドガさんどころか、ルネサンス時代から使われている伝統的西洋絵画手法とのこと。
いやあ、結局いつの時代でも、そこへ向かってバランス取りたがるんですよ。
それが人間の性であると、改めて確信できました。(笑)

しかもドガさんの得意技はハゲオヤジ効果だけではなかった!

靴紐直しや肩紐直しの着衣の乱れや個性のある顔なんかより背中重視のボディライン取り入れ。
フェチ全開です。

後年、目が悪くなって油絵だけでなく、粘土彫刻などにも取り組むのですが、動きのあるポージングの作品が目立ちます。
ポーズから現れる体のラインの追求。
わかる!

最後にまじめな美術本の解説との比較を記述しておきます。
たまたま家にあった母の蔵書で『現代世界美術全集/5 ドガ/ロートレック』がありました。
1966年初版のものです。

ドガの作品と解説が載っているのですが、「ペディキュア」という作品があります。

『現代世界美術全集』のまじめな解説だとタイトルからして「足の指の治療」になっています。
冒頭の部分を引用すると、

室内の日常的な生活を描く画家ドガの象徴的とも言える作品である。同時に子どもに対する彼の愛情にみちあふれた、ほほえましく暖かい作品とも言える。

これが、山田氏の解説になると、

ハゲオヤジが女の子にペディキュアを塗ってる。これはもう明らかに社会派ジャーナリズムじゃなくて変態派エロティシズムでしょ?
(中略)
少女を陵辱する側のハゲオヤジが、逆に奉仕する側に回ってる。いわばSM逆転プレイ

この違い。(笑)
見る人、見る視点によって作品の解釈がガラリと変わるのはアートを楽しむ点で面白いひとつでしょうね。